俺が守ってやるよ。

みらい


昨日までは

名前しか知らない先輩だったのに───

運命の出会い、なんて分かんない。

ただ、ひとつ分かるのは

「俺がおまえを守ってやるよ。」

 先輩の、その言葉だけ───


自宅からそう遠くない所にある、朝のバス停。

「まだか…」
もう5分以上は遅れているんだけど──
この時間にくるはずのバスが、まだ来ない。
「はぁ…」
ケータイで時間を確かめていると。
「あれ?見たことないよね―。バス待ってんの?」
唐突に、誰かが背後から、話かけてきた。
え?誰……?
声に釣られて、振り向いてみたものの。
「あ、その制服ってS学園!? もしかして、S学の子?」
高校生なのか。
制服を着た、茶髪っぽい男子が、にっこり笑っている。
「……………」
けど。
見覚えがないっていうか……。
全然、記憶にないんだけど。

「やめとけ、虎太郎」
彼の背後から、また別の低い声がした。
コタロウ……?
最初に私へ、声をかけてきた彼は、“虎太郎”という名前のようで。
「うるせーよ、おまえのせいでいつも女と仲良くなれねーじゃん、蓮」
そして。
その虎太郎から“レン”と呼ばれたもうひとりの彼は。
「…………」
見た目は、黒髪でまともそうだけど──
隣りの、賑やかな男子と一緒にいる時点で、どうなんだろう……。
「ねぇ名前、なんて――」
「…もうバスが来たから、いいだろ虎太郎」
予定の時刻より遅れたものの、ちょうどいいタイミングでやってきたバス。
「………」
なんだか対照的な2人だ…とは思うけど、できれば他校の男子とは、関わり合い
たくないし・・・。
なるべく避けながら、バスに乗った。

───…
無視するように、バスへ乗車した私に。
「あー、おまえのせいで、あの子に名前聞き損ねたじゃん」
ちょっと軽そうな茶髪っぽい男子は、不機嫌そうだったけど──
蓮とかいう黒髪の男子は、ほぼ無表情でバスに乗っている。
「はぁ…」
昨日、転んで足を挫いたせいで、徒歩通学は無理そうだから、バスに乗ったのに
なぁ。
朝から変な他校の男子たちに、遭ってしまった。

───…
「うっ…」
ほぼ満員に近いバスは、走り出すと揺れに揺れる。
酔いそうなくらい。
「なに? バス酔いしちゃったの?」
隣に立っている虎太郎が、話しかけてきた。

ていうか。
お願いだから、今はそっとしておいて欲しい。

「気分悪いなら一緒に降りようか?俺が」
私の顔をのぞき込んでくる、虎太郎。
「……いいです、大丈夫だし…」
黙っていれば、なかなかカッコいい男なのに。
口で損をしていると思う。
「ねぇ、やっぱ――…」
「コタ、」
虎太郎の声を途中で遮断したのは、感情のない人形みたいな蓮の声で。
「遊びは、そのくらいにしとけって」
遊び……?
一瞬、その言葉が引っ掛かったけど、今は深く追求する気にもなれない。
ただ。
虎太郎が太陽なら、蓮は、月って感じ?
こんな真逆の2人の間で。
なるべく踏ん張っていたけれど――…

*********

なんとか無事に?学校へ着いた。

「捻挫、大丈夫だった?雅(ミヤビ)ちゃん」
「まぁね」
「酷いよね、あれ絶対に、わざとだもん」
私に昨日の出来事を、鮮明に思い出させたのは、クラスメイトの園山瑠花。
「美山くんのことだって、誤解なのにね」
ひとこと多くて空気が読めないと言われている瑠花だけど。
このクラスで今の私が、まともに会話をするのは、瑠花くらいしかいない。
「あ、また雅ちゃんを睨んでるよ、飯沢さんが、」
ちらちらと、飯沢さんの様子を窺っている瑠花。
「ほら」
「…あ、…うん」
だからもう…。
そういうのがダメなんだって。
…………。
クラスでも目立つタイプの飯沢さん。
彼女の好きな男子と入学早々うわさになった私は、途端にこのクラスで、つま弾
きにされた。
──もともと彼女たちに敬遠されていた、瑠花と一緒に。

『ちょっとっ、』
あれから目を合わせるごとに、何か言いがかりをつけてくる飯沢さんと、そのグ
ループの子たち。
『邪魔、なんだけど、』
昨日は、あざとくぶつかってこられた。
で、私は捻挫をしたってわけ。

「わ、こっち見てるよ、飯沢さん」
「だからもういいって」
勝手に関わり合ってくるのは、あっちなんだから。
ほんと誤解もいいところ。
……はぁ。
面倒くさいなぁ。

「ところで雅ちゃん。バス通学は、どうだったの?」
しかも瑠花は、触れて欲しくないところばかり触れてくる。
「……ん?」
やっぱり空気読めないっていう噂は、当たってるのかな…?
「まぁ、普通だったよ」
「フツーぅ?」
本当は、ちょっと軽そうな他校の男の子と。つかみどころのない無口な男の子に
絡まれてしまったんだけど──
それは無かったことにしておこう。
別に、瑠花に話すことでもないし。