S級男子に愛されましたっ!

綾瀬りな


あれは一週間前の、入学式。
「よし。髪まっくろ。ナチュラルメイク。制服フツー。完璧」
雪村リノ、十五歳。
ぴしっとばっちり「ふつー」で決めた。
私ね、顔立ちが、ちょっと派手めで。
おまけに髪が生まれつき金茶色なんだ。
しかも中学の時、ちょっとだけ病気がちで欠席が多くて。
学校ですっかり「遊んでる子」って事にされちゃって。
結局三年間、誰とも打ち解けられなくて、寂しかった。
だから高校では絶対に、目立たない!
体力ついて、寝込むこともあんまりなくなったし。
髪を黒くして、毎日ふつーに学校行って、ふつーに友達作って。
寂しくない高校生活を送るの!
って、決めてたのに。
入学式に思いっきり、遅刻しました。
「ああああ、しまったぁぁぁぁぁ」
だって……遠いんだもん。この学校。
知り合いいないとこに行きたかったから、仕方ないんだけどさ……
体育館から、校長先生の話す声が聞こえる。
「どーしよ。新入生入場、終わってる」
絶対に目立たないつもりだったのに。
最初から、やっちゃった。
私が校門で立ちつくしていると。
突然、爆音がした。
「ば、ばいく? 学校にバイク?」
桜吹雪を舞い散らせて私の横をすり抜けたのは、一台の大型バイク。
真っ赤なボディがヴン! って音立てて、キレイに転回して、停まった。
砂煙のなかで振り向いたのは、制服姿の男子。
ヘルメットもしてないそのひとは、少し広がった髪を軽く押さえて
それからじっと、私を見た。
目の形がびっくりするくらい綺麗で、でも男っぽくて。
なんか……オーラ?がすごい。
高校にはこんな人もいるんだな・・・・・
なんて思ってたら、いきなり言われた。
「お前、その黒髪、似合ってねーな」
「はあっ?」
「無理に染めんなよ。もっと似合う髪形、あんじゃね?」
髪形って。
会って二秒で、髪形にダメ出しって。
な、なんでノーヘル遅刻男にそこまで言われなきゃならないんだ!
そのまま、彼はバイクで去って行った。
「ほ、法律まもれぇぇぇぇ!」
私は思わずそんな叫びをその背にぶつける。
私、パパが警察関係者なんだよね。
だから交通違反って許せないの。
でも、あの人。
なんで私の黒髪、染めてるってわかったんだろう?

とりあえず、先生がこっそり体育館に入れてくれて、どうにか入学式に合流完了。
良かったぁぁぁー、目立たなくて。
胸をなでおろしつつ、列に混じって立ってると。
「次は生徒会長、神楽坂レオンからの挨拶です」
『きゃあああああああーーーーー!」
「レオンー!」
「かっこいいいいいい!」
うわっ!
すっごい声!
主に、在校生の女子から!
大歓声の中、ステージに上がったのは・・・・
(ああ!あの人っっっ)
さっきの、無礼なバイク男!
あれが生徒会長? うそでしょ?
余裕たっぷりで壇上に現れたそいつ……神楽坂レオンは。
私のいる方をぱちっ!と見て。
「あれっ、さっきの似合ってねー黒髪の女じゃん。お前一年だったの?」
私を指さして言った。
しらない振り!
知らない振り!
全力で知らない振り!
目立つのやだ!
なのにレオ先輩は、止まらない!
「お前だよ、お前。
 すげーデカ目で
 身長が165くらいあって
 中途半端な丈のスカートはいて
 ベージュのシュシュで髪一つにまとめて
 ちょっと耳が尖ってて
 唇にピンクのグロスうっすら塗ってる
 一年A組、最後尾の
 お・ま・え・だ・よ!」
な、な、なんでそんなに、私の事よく見てるのよ!
そんなの私しかいないじゃん!
みんなが私の事、見てる。
視線。いくつもの視線。
怪訝な顔。
怖いよ!
「おーい、返事しろよー」
「やめてよ! もうやめて!」
私は思わず、叫んでいた。
「なんだよ、先輩にいきなりタメ口か、生意気だな」
「何が先輩よ! ノーヘルの常識知らず!」
……あっ。
しまった。
また「買い言葉」しちゃった。
私、パパ譲りなのか、妙に正義感強いって言うか。
曲がった事が嫌いって言うか。
すぐ、こうやって口答え、しちゃうんだよね。。。やばっ
「おもしれーじゃん」
神楽坂レオは、ニヤリと笑った。
「なあ、ディー、アオト、イッキ」
先生達にならんで体育館の壁際に立ってる、制服姿の三人の先輩に向かって、言う。
もしかしてこの人たちって、生徒会役員、とか?
「こいつ、今年の『姫』でいいよな」
姫? ってなに?
「レオンが気に入ったなら仕方ないかな。俺も賛成だよ」
「レオン、言いだしたらきかねーもんなあ」
「……意義、なし」
え? え? なに?
「と言う訳で、今年の『姫』はそこの一年に決定。異論は許さねえからな!」
レオ先輩がそんなことを、宣言した。
「冗談でしょ?」
「なんで新入生がいきなり「姫」なの?」
「レオーーやめてよ、私にしてーー」
女の子達が、悲鳴みたいな声を上げる。
何が起こってるの?
「姫」ってどういうこと?
 まったく、訳が分からない。
私はホケーっと突っ立ってることしか、できなかった。