──恋を実らせてくれる電話ボックス。
その電話から好きな人に告白すれば、両思いに──。
先ほど聞いた噂話が脳裏をよぎる。
(……そんなうまい話、あるはずない)
バカみたいだ、根拠もない都市伝説を信じるなんて。
そう思っているのに、足が止まらない。
もし、その都市伝説が本当だったら……。
──キィ……。
トモミの意志に反し、手が勝手に電話ボックスのドアを開けていた。
ポケットに入っていた十円玉を取り出してコインの投入口に入れ、受話器を取りあげる。
(ずっと……)
ゆーじとミーナを近くで見ながら、あふれそうになる気持ちを飲みこんできた。
告白して気まずくなるのが怖くて、ずっと気持ちを隠してきた。
でももう限界だ。
今、携帯電話は手元にないが、アドレス帳を見なくてもゆーじの携帯番号なら暗記している。
きっとミーナはわからないだろう。
自分のほうがゆーじのことを想っている。
ゆーじを幸せにできる……!
(……でも)
かすかに、頭の中でもう一人の自分がささやく。
(あたしの恋が実るってことは、ゆーじとミーナは……?)
どくん、と心臓が鳴った。
ゆーじがミーナをずっと好きだったことを、自分は知っている。
要領を得ないミーナの話をゆーじがいつも愛しそうに聞いていたことも。
他の男に片思いしていたミーナの恋愛相談に彼が乗っていたことも。
今、ゆーじはようやくミーナとつきあえることになったのに
……そうした彼の想いはどこへ行くのだろう。
「あ……」
トモミの胸に迷いが生じた。
電話機のボタンを押そうとした手が動かなくなる。
と、その時だった。
──オマエノ 後ロヲ 見ロ
耳に当てていた受話器から突然、聞いたこともない耳障りな声が響いた。
低く、くぐもった冷たい声音。
憎しみや恨み、悪意そのもので作られたような声が。
──後ロヲ 見ロ
「ひ……っ」
トモミはその場に硬直した。
……声は受話器の向こうから聞こえるのではない。
真後ろだ。
背後に誰かが立っている。
電話ボックスが開く音はしなかったのに。
もう受話器は耳から離しているのに。
「……や、な、なに……」
後ろを見ろ、と壊れた音楽機器のように、「声」はひたすら繰り返す。
同時に、ずん、となにかが肩にのしかかってきた。
耳もとに生臭い息を吹きかけられた。
恐怖で心臓が凍りつく。
なにが……なにが背後にいるのだろう。
後ろを向いて確かめたい。
なにもいないのだと安心したい。
(でも……)
──赤い電話ボックスは恋を叶える。
──だが、後ろを見たら殺される……。
ミーナから聞いた都市伝説の結末が頭から離れない。
あれがもし本当だったら……。
「……や……やだ……」
足がふらつき、トモミは思わず電話機に手をついた。
と、その手がずるりと滑る。
「……ひ……っ」